第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と act.3

-惑星ウォパル ルーサーの研究施設・秘匿エリア-

秘匿エリアの入口からここまでさしたる抵抗も出迎えもなく、周辺を探索しつつ奥へと進む一行
長い沈黙を破ったのはまたもセキュリティロックだった

「・・・ココも透火ちゃんの認証、要るのかな?」

ずんが端末を調べながら呟く、瑠那がカード用のスリットに気付き知らせた。

「ココ、さっきの所員証が使えるかも・・・」

早速手前の部屋で入手した所員証を通してみると、狙い通りにロックは解除された
どうやらセキュリティレベルが高いのは入り口だけらしく、他は所員証などがあればフリーパスのようだ

「秘匿エリアだけあって情報はあるにはあるけど・・・どれも既存データや偽装ばっかり、今回狙ってる本命には程遠いわね。」

サラは端末のデータを洗いざらい本部へ転送しつつ中身をチラ見しているが、偽装や機密ロックの解析に本部も手間取っているらしく、なかなか芳しくないらしい

「状況が一向に進展しないなら、一度手分けするのもアリかな・・・」

トリニティの提案に異を唱えるものは居なかった
ここまで敵にも遭遇せず、調査作業と移動だけで時間を潰すのは得策ではない
となれば、手分けして探すほうが時間の節約にもなる

「依頼者のサラには、眞那と瑠那を付ける、僕と透火とずんで別働隊を組もう。」
「異論はないわ。」
「・・・兄様と離ればなれ(´・ω・`)ショボーン」
「おまかせなのだ!」
「OK、仲良しトリオ復活だねぇw」
「分かったわ。」

-秘匿エリア北ブロック・サラチーム-

サラをリーダーとするAチームは鼻歌交じりで水先案内をする眞那と、若干落ち込み気分の瑠那を従え、施設内部を探索していく

微妙な雰囲気に耐えきれずサラは瑠那に発破をかける
「・・・瑠那、私情を任務に持ち込むのは良くないわよ?」
「分かってます・・・」(´・ω・`)ショボーン
(全然分かってないわね・・・。)

いくらか進んだところで、巨大な実験場の様なエリアへ出たのだが・・・セキュリティに引っかかったのか入り口が施錠され、そこへ実験生物・・・海王種が放たれてしまった

「・・・何もないのは罠だったってことね。」
「散歩もいいけど、これくらいの運動はしなきゃやっぱり退屈なのにゃw」
「どうでもいい・・・早く倒して、調査終わらせて、兄さまとランチにする。」
サラ&眞那(うっわ・・・めっちゃ欲望丸出し発言キター!)

3人は戦闘態勢を素早く整え、散開して各個迎撃を開始
ワイヤードランスを扱うサラとツインマシンガンの瑠那、そしてカタナとバレットボウを使い分ける眞那
3人それぞれが暴風雨のように敵を圧倒、瞬く間に大半の海王種をなぎ倒していく

「・・・このパターン、もう慣れっこよ。」
「大した強さじゃないにゃ、オトトイ来るにゃっ!」

毒を吐きつつ戦闘をこなす眞那と瑠那、頼もしくもあるが・・・サラには一抹の不安がよぎっていた
現実にならなければいいが・・・と思っていた矢先、事態は予測していた通りになってしまった

「大型海王種・・・ビオル・・・いえ、マギサ・メデューナ!?」
「おっきいにゃ・・・いつもの2倍くらい?」
「侵食も受けてる・・・厄介ね。」

ボスクラス、しかもダーカーによる侵食を受けた個体は凶暴性が恐ろしく高い
嫌な予感が的中したサラは肝を冷やすが、2人はむしろ嬉々とした表情で相手を見据えていた

「ねね、瑠那・・・あんだけデカイならけっこう耐えれそうだし、アレの練習にもなるかにゃ?」
「・・・そうね、練習台には最適なエモノね。」

2人が何を指して「アレ」というのかは不明だったが、おかしな発言しか飛んでこない

「・・・ねぇ・・・あんた達・・・いったい何するつもり?」

眞那と瑠那は顔を見合わせ、声を揃えて笑顔で応えた

「いわゆる一つの、合体攻撃にゃ♪」
「簡単に言えば、合体攻撃よ。」

最早思考がマトモにできない・・・呆気にとられるサラを尻目に、眞那と瑠那はそれぞれが攻撃の準備を進め、整ったところでマギサ・メデューナを見据える

「それじゃ、今日も暴れまくりで行っちゃうのにゃ~♪」
「いつものだけじゃ練習にならないわ・・・パターンを変えるわよ。」

牽制とばかりに[ディフューズシェル]を連射し、相手を自分に引きつける瑠那
その隙を狙って眞那が相手の頭上大上段から[ゲッカザクロ]を叩きつけて着地、さらに1ステップで相手の頭へ接近し[ツキミサザンカ]をお見舞する

「そっちは囮よ。」

斬撃の終わらぬ内に瑠那はツインマシンガンに持ち替えて相手の背後を取り[サテライトエイム]を至近距離で後頭部へ連射、続けざまに[バレットスコール]
撃ち終わりをカバーするように通常弾を連射し、トドメとばかりにアサルトライフルで[エンドアトラクト]をチャージする

「よそ見は厳禁にゃっ!」

チャージ開始の瞬間には既に眞那がマギサ・メデューナの頭部に再度接近し、複数のカタナ用フォトンアーツを織り交ぜた高速の斬撃を次々と叩き込んでいく

「・・・これでおしまい。」

チャージ完了と同時に眞那は闘気を開放、[カタナコンバットフィニッシュ]によって納刀しつつ降下、同時に頭上から最大チャージの[エンドアトラクト]がマギサ・メデューナの頭部にHITした
一連の動作は完全にマギサ・メデューナの頭部を消し飛ばし、物言わぬ骸へと変えてしまった

「これがあたし達2人の♪」
「・・・切り札よ。」

着地した2人から聞こえたのは厨二病確定レベルの決め台詞であった

第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と act.2

トリニティとずんは護衛隊と分かれ、斥候として捜索に出てしばらく・・・
2人は先程のエリアからは少し離れた開けた地点で周囲の様子を探っていた。

「この辺りの海王種も、ほとんど居なくなってる・・・ということは」

ずんは推測ながら、周囲の海王種はほとんどダーカーに追われてこの近辺から去ったか、あるいは先程の防衛戦で殲滅しきれた、と類推する
トリニティのセンサーも、それを肯定する環境数値を示していた。
・・・しかし、少しだけ違う情報もあった。

「でも、この周辺の海王種は移動したんじゃない・・・この場で殲滅させられてるね。」

残留するフォトンのデータは、ある反応を顕著に示していた・・・それはアークスが放つ攻撃性テクニックのフォトン反応だった。

「この場でも戦闘が? 仮にそうならそのアークスは一体どこに・・・?」

トリニティは環境数値に注意しつつ周囲の動体反応を検索・・・と同時に頭上に反応をキャッチした。

「・・・ぃちゃーん!」

普通ならドップラー効果で途中から聞こえる声に不信感を持ち、頭上を見上げたところに何かがHITする・・・だろう。
ただし、その声の主が知らない人物であれば・・・だ。
トリニティは声の主を特定、ある行動に出た。

「みぎゃっ!」

あろうことかトリニティは片手で声の主の顔を鷲掴みにした・・・乱暴かつ非情な扱いだが、ずんは至って平常な顔・・・むしろ呆れてすらいた。

「・・・何をするかと思えば、そんな手に引っ掛かる兄さまではありません・・・いい加減に学習なさいバカ姉。」

声と共にずんの左側に新たな人影が近付いて・・・いや、出現した。
足音もなく現れたのはメイド服の少女・・・しかしそのスカートからは黒く硬い鱗状の外観を持つ尻尾が見え隠れしている。
頭には金属製の羽飾り、赤い目は不気味な眼光を放ち、異様ささえ感じる。
しかし、その身長はずんの2/3程度しかなく、むしろメイド服の小さなコスプレイヤーにしか見えなかった。

「2人でここまで? またトリーを驚かせようと・・・懲りないねw」

ずんは傍らに出現したメイド服少女にも驚くことなく、知り合いのような口調で話を始めた。

「いえ、私達も調査隊の護衛です・・・最も、兄さま達とは違って集団ではなく「個人の」ですが。」
「個人? ウォパルへの立ち入りは一般的にはまだ禁止されてるのに?」

トリニティは閲覧データからウォパルへの降下制限状況を確認した。
大規模調査団の編成と同時に一般・・・個人的な調査依頼は停止させられていたはずだ。

「それは、私から説明した方が良いわね。」
声と共に岩陰から出てきたのは、彼らのよく知る人物・・・サラだった。

-惑星ウォパル・ルーサーの研究施設最深部 巨大実験場エリア-

「・・・ここに来た目的だけど、前に吸い出したデータの中に気になる記述があったの。」

それは、クラリスクレイスのクローンを産み出した「C計画」より以前のもの
「R計画」と呼称されていた極秘プロジェクトの断片情報らしい
シャオが言うには「計画は虚空機関(ヴォイド)の中でもとびきり重要、かつ極秘で進められていたもの」らしく、「ごく一部の研究者とルーサー本人しか知らない」案件だったようだ。

「計画の立案者はルーサーじゃないけど、肝入りの案件であった事は確かね・・・施設もこのウォパルで行われていたみたいだし・・・ただ・・・。」
「・・・ただ?」

歯切れの悪いサラの雰囲気を感じ、ずんとトリニティは聞き返すが・・・

「・・・いい加減その子、離してあげたら?」

突然の事で一瞬理解が及ばなかったが、トリニティは右手でずっと「その子」の頭を鷲掴み状態でキープしていた。
掴んでからもう数分は経っていたため、掴まれた子はずっと息が出来ない状態であるはずだ。

「おっと、そうだったw」
「ガハッ・・・ひぃ~、ゴホッゴホッ・・・」

ようやく鷲掴み状態から解放され、ネコミミ少女が数分ぶりの呼吸を初めてむせ返る
かなりぞんざいな扱いを受けていたにも関わらず、然したるダメージや命の危機的な状態は皆無・・・むしろピンピンしてトリニティに食って掛かる。

「いくらあたしが頑丈だからって、扱いがぞんざい過ぎ! あと少しでお花畑見えるトコだったじゃん!」
「そんな低レベルなスキンシップにしか走れないから兄さまからの扱いがぞんざいになるんです、・・・兄妹らしい扱いを望むなら慎みを持ちなさいバカ姉。」

メイド服の少女がネコミミ少女を叱咤する。
トリニティもずんも、この2人の口論はもはや見飽きたレベルである為、さして気にも留めないでサラの話を聞こうとしていた。

「兄妹・・・って、貴女たち、彼とは血縁だったの?」
「そうよ、トリ兄とあたし達は兄妹なの♪」
「貴女は初耳でしょうね、ですが事実です。」

サラは眞那と瑠那、そしてトリニティとの付き合いはそれぞれに長かったらしく、3人の関係を初めて知り驚きの声を上げた。
ネコミミ少女、眞那(マナ)とメイド服の少女、瑠那(ルナ)・・・
外見からして似ても似つかない2人だったが、遺伝子情報レベルでは瓜二つ・・・いわゆる、一卵性双生児である。
姉の眞那はフォトン適正が防御面に偏っている事と、肉体組織の一部が突然変異によって獣化しており、獣耳と尻尾を最初から持っている事・・・
妹である瑠那は優秀だが病弱であった事と、元々のフォトン適正が改造前と同等くらい低かったので、ほぼノーリスクで後天的にキャストになった事を語った。

「これだけ似てない双子って初めて見たわ・・・」

率直な感想を述べるサラ・・・似てない双子は数居れど、ここまでの差異は無いだろう。

「それよりも、サラが依頼主だったんだ・・・あれ、でもそれじゃ3人で?」
「違うわよ、もう1人連れては来てるんだけど・・・」

その時だった、急に足が動きにくいと感じたのは・・・
とっさに周囲を見回す2人だが、サラは至って平然・・・眞那と瑠那も姉妹で口喧嘩の真っ最中
この奇妙な感覚を感じたのはずんとトリニティの2人だけのようだ

「あれ、ずんずんに・・・トリー?」

ふと声のした方を見れると、そこに居たのは目立つピンクの髪をポニーテールに束ね、水色と白が綺麗な「セラスアリシア」を纏った少女が立っていた。

「やぁ、透火ちゃんw また別シップ旅行に来てたんだね。」
「この子たちがトリーにまた会いたいって泣きついて来たからねぇw」
「泣き付いてなどいません、やるのならこの無能姉の所業です、別に私は泣き付いてなど・・・ッ!?」

と、言いかけた瑠那の表情が次の光景を見て一瞬にして凍りついた・・・
眞那はトリニティとずんに携帯端末である画像を見せていた、普通なら何気ないものだが、表示されている画像が画像だけに凍りついたのだ。

「あ、コレってあの時の・・・やっぱり隠し撮りしてたんだ。」

・・・という透火の一言が更なる燃料&着火材となった。

(# ゚Д゚)<「・・・ま、待ちなさいこのバカ姉ぇぇぇぇ!!」

怒声と共に背負ったアサルトライフルを乱射し、鬼気迫る顔で姉を追いかけ始める妹・・・そんな妹を笑いながら弾幕を掻い潜って逃亡し続ける姉・・・
この状況でこれだけ気を抜けるというのはもはや高等芸の域であろう。

- 惑星ウォパル・ルーサーの研究施設・巨大実験場入り口 -

「このエリアはもう掃討済みだけど、一応油断はしないでね。」

透火が注意を促し、ずんとトリニティが前に出る。
依頼主であるサラも通常戦闘は可能だが、依頼主が倒れると任務失敗となる都合上、布陣の庇護下に置かれていた。
頑強で破壊力も併せ持つハンターであるずんと、索敵・罠解除を得意とするレンジャーで内蔵センサー類による狙撃能力を持つトリニティが正面のアタッカー、テクニックによる法撃支援の透火は後方を警戒し、両翼には機動力と瞬発力に長けたガンナーとブレイバーである瑠那と眞那が担当する。

「この施設自体は、もう何年も前・・・【巨躯】復活の前にはもう使われてなかったようね。」

施設の老朽化は著しく、生きている端末は数少ない・・・たどり着いた巨大な空間にポツリとあった生きている端末を見つけてサラが呟く。
虚空機関(ヴォイド)関連のデータを吸い出しながら端末を調べていくうちに、サラは施設の見取り図のデータを発見した。

「ラッキーね、このデータなら使えるわ・・・マップデータは一応みんなにも転送しておくわね。」

全員の端末へデータが転送され、現在位置と施設の一部情報が更新されていく・・・途中サラはその中に「秘匿施設レベル7」というエリアを発見した。

「秘匿・・・あからさまに怪しいわね、場所も近いし、こっちも調べておいたほうが良いかしら?」

《極秘の調査とはいえ、今回の主導はいちおうキミだからね、僕としてはムリしないのなら別に構わないけど・・・護衛のみんなの方はどうかな?》

通信の主はシャオ・・・先の【敗者】戦後から新たにシップ管理者として迎えられたシオンのコピーであり、現アークスの最高責任者でもあった。
そんな彼から「お好きにどうぞ」という旨を直接言われたのだ・・・断る理由は何もない。

「それじゃ、未知の領域・・・秘匿施設の初期調査開始ね。」
「おー♪」
「遊びじゃないのよ、遠足気分は止めなさいバカ姉。」
「まぁ、ガチガチになるよりはマシだからねw」
「だからといって油断は禁物、何があるか分からないからね。」
「この布陣なら【巨躯】や【敗者】でもない限り大丈夫でしょw」
「ヤメてよずんずん、それでマジ出たらどうすんの!?」

それぞれ口々に期待と不安を出しながらルートを辿っていく。

- 惑星ウォパル・ルーサーの研究施設・秘匿エリアレベル7 -

さしたる襲撃もなく、予定地点・・・秘匿エリア・レベル7の入り口に到達したのだが・・・問題が起きた。
エリアの入り口には厳重なセキュリティが施されており、固有人物の認証がなければ開放されないという代物だった。
試しにサラがセキュリティ突破を試みるが、あえなく失敗・・・次にトリニティも挑戦するが、相手との演算能力の差が開きすぎて無理。
しかも認証そのものは全身の生体スキャニングであり、現状で使える手段での開放は事実上不可能ということになった。

「・・・さすがに貴男で無理となると、シャオでも連れてこないと無理ね。」

トリニティの挑戦後、肩を竦めため息を吐くサラ。
余剰領域の殆どを演算に使ったトリニティは自身の駆動システムを再起動するために一時停止中で、その復帰を待って帰還ということになった。

「・・・どうしたの透火ちゃん?」
「ん~、これ・・・キーはたぶん研究員の生体認証でしょ? アキさんとか、元所員のデータで偽装できないかな? ほら、こうやって・・・」

そういって透火はスキャナーの前に立ち、セキュリティ領域ではなく伝送されるデータを書き換えてみたらどうかという説明をし始めた・・・その時だった。

<<対象の生体スキャンを開始…秘匿レベル9の生体承認コードを確認、当該施設のセキュリティを解除、認証コード有資格者への一時開放が許可されました。>>

突然の電子音声と共に施設内のシステムが稼働し始め、あれだけ厳重にロックされていたセキュリティがいとも簡単に開放されていった。

「ちょっ!?」
「え~・・・」
「あ、開いた・・・?」

一部始終を見ていたずんとサラ、そしてスキャナーの前に立っていた透火自身も我が眼を疑った。
しかし、スキャナーと認証端末はすべてグリーン、厳重だったセキュリティも全てが一時的だが解除されているらしく、扉は開放され奥の端末と設備が一部もう見えている。

「…駆動システム再起動、P‐GPS位置情報特定完了、生体データ認証…オールグリーン、システムリブートチェック…全て正常値、再起動シークエンスを終了します。」

ちょうど良いタイミングでトリニティの自己診断と再起動が終わり、無機的な機械音声からだんだんとヒトらしい発声へ変っていくナビ音声を発しながらトリニティが立ち上がった。

「トリー、ヤバい! ドア開いた!」
「えっ!?」

扉と認証端末のグリーンコードを確認し、驚きを隠せないトリニティ・・・。
一番訳が分からないのはスキャナーに立っていた透火だ。

「なんで・・・コレ・・・だって生体認証・・・ほぼ100%個人特定で・・・誤魔化しとか効かないのに・・・。」

自分は説明しながら立ってみただけで偽装の準備など一切していない。
たとえ偽装しようという気があったとしても、この場で実行できる手段じゃ誤魔化しなんて効くはずがない。

「透火・・・アナタって・・・」
「分かんないよ! 分かんないの・・・私、記憶にない・・・思い出せない・・・10年前から・・・それ以前も・・・!」

悲痛な叫びにも聞こえる声で肩を震わせながら弁明しようと必死になる透火。
全員黙ってその声を聴いている、更に必死になって言葉を紡ごうとしたその時だった。

《キミの過去がどうあれ、今のキミは正規のアークスだ。今更キミをどうこうするのは組織としても僕自身の考えとしてもプラスになるとは思えないからね。》

突然にシャオが通信で割り込みを掛け、言葉を打ち切らせる。

《この件に関しては僕が預かる・・・キミ達は予定通りそのまま当該施設の調査を続行してくれ。》

同時にシャオは管理者権限を行使し、この件は自身が預かる事を周知させた。
彼女の過去についてはシャオも気になる部分があったらしい。

《・・・そこのセキュリティ、開放は一時的なものみたいだから、せっかくだし開いてる今の内に調べてきてくれないかな~? ルーサー絡みの貴重なデータが取れるだろうし、むしろそこで彼女の事が分かるかもしれないからね。》

ついでのようにわざとらしい口調のお願いに応えるべく、トリニティはいち早く突入準備と内部のスキャンを始めながら呟いた。

「・・・透火の過去はシャオに任せて、この施設はキッチリ調べとかないと。」
「カワイイ子にどんな過去があっても、ボクは別に気にしないけどね~w」

ずんは扉から堂々と直接顔を覗かせ、内部の様子を見ながら気楽に言い放った。
サラは厳しい表情のままだが、自分と似た過去を持つかもしれない透火の側で手を握り、励ます。

「アナタの過去は分からないけど、私はアナタが何者であっても信じるわ・・・だって、これまでも普通にアークスとしてやってきたんでしょ? これからもそうであればいいだけの話よ。 過去なんて関係ないわ・・・アナタは今まで通りで居れば良いんだから。」

かつて自身の過去が判った時にも語られた言葉。
・・・過去を気にするより今を、先を見ろという叱咤激励。

これがアークスだ・・・自らを犠牲にすることで世界を救おうとし、深遠なる闇になりかけ、そして救われた2代目クラリスクレイス・・・マトイという少女も、サラを元にルーサーに産み出され、利用されて、棄てられた3代目クラリスクレイスも・・・彼ら救われ、赦されて、今やアークスの中枢戦力として迎え入れられている。
過去や出自など些細な事でしかない・・・それが現アークスの体勢であり、基本理念にもなっていた。

涙を拭い透火は気丈に顔を上げ、開かれた扉を全員が揃って入っていった。

第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と

スクナヒメとロ・カミツ襲撃事件から約1ヶ月・・・

ロ・カミツの封印状態は「限定空間内の時間停止による継続的拘束状態」と判明し、現場と原生民族である龍族に詳しいアキを加えた対策専門チームが結成され、解決案を模索中・・・

スクナヒメを襲撃した謎の「黒い女」に関しては、目下消息不明・・・

しかし、「黒い女」探索中に謎の信号をキャッチする、それは惑星ウォパルにあったルーサーの研究施設…その未調査区画からであった。

-アークスシップ4番艦・アンスール 一般区画「真紅の酒場」-

「・・・それで、詳細は?」
「ああ、なんつったっけ・・・例の研究施設がある星・・・
そうだ、ウォパルだ。そいつの海底エリアで見つかった研究施設の調査団が護衛のアークスを募集してるってよ。
俺らはそんな大集団を護り切れるか分からねぇ・・・が、お前達ならどうだって奴さ。」

2人の男がバーのカウンター席で内密であろう話をしている。
右の男は見るからに「アークス」らしい装備を整えており、歴戦の猛者感を感じるが、この依頼にはあまり自信が無いという。
左の男は銀髪に白いコートという見た目だが、依頼内容を気にする辺り、同じアークスなのだろう。
・・・強いという風には見えないが

「で、どうよ・・・俺らは辞退するからな、その枠をお前たちに譲ってやるよ。」
どうやらこの2人は「大規模調査団の護衛依頼」、その護衛役に関する話をしていたようだ。

「悪い話じゃなさそうですね・・・じゃあ、上への打診までは其方でお願いします。あとは僕らでやりますから。」
「おうよ、悪りぃな・・・さすがに俺らも歳だからよぉ・・・」
老骨に鞭打って出撃する気はないと右の男は嘆く、左の若い男はそんな彼を労わる。
「代役とはいえ、僕ら新参にとっては晴れ舞台ですからね・・・機会を与えてくれた貴男に感謝を。」
白コートの若い男はそう言って支払いのパスをカウンターに出そうとするが・・・
「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか・・・ここはオレの奢りにしてやるよ!」
一足早く右の男が同じパスをカウンターへ突き出し、額は少ないが2人の支払いを済ませて席を立って行った。

-アークスシップ4番艦・アンスール ショップエリア・武器強化カウンター前-

「では・・・」
「一斉に・・・」
「行きます・・・」
3人の若いアークスたちが一斉に手にした装備をショップカウンターへ出す。
目的は「装備強化」、その最終段階である。

結果発表!
「素晴らしく運がないな、君は。」-1
「ふむ、成功じゃないかな?」+1
「素晴らしく運がいいな、君は。」+1

「ぐぁああああ!チクショウ!」
最初に預けた鯛の被り物をした黒コートの男だけが怨嗟の叫びを上げた、残る2人の強化は成功したようだ。
「ふふふ・・・これで私たちは無事に強化完了。・・・次の集会は期待していますよ、ずん。」
「ゴチです。」
「ぬぁぁぁぁあ!」

たかが強化で・・・と思う人もいるであろうが、実際こんな事で一喜一憂するのがアークスの日常である。
そこへ、酒場の方から白コートの若いアークスが輪へ入って来た。
彼らとは同じチームメイトであり、先ほど自身が受けた老骨アークスからの依頼代行の件を仲間に伝えに来たようだ。

「あぁ、トリー・・・見ての通り、ずんだけ失敗だよw」
「生け簀育ちに、大海原は厳しいのだった・・・」
「だまれよぉぉぉぉ!!」
ずん、と呼ばれた鯛の被り物をした黒服のアークス。怨嗟の声で女性2人に叫ぶ。
半ばあきれ顔の白コート・・・トリーと呼ばれたアークス、彼の正式名はトリニティ。
輝く銀の頭髪を豪快に後ろで纏め、端正な顔立ちに赤縁の眼鏡をしている。
耳であるはずの部分には機械が見えており、彼が人間でない事が一目で分かった。

「・・・強化補助剤でもケチったのかい?」
「ちゃんと使ったんだよぉぉぉ!! ・・・ゲージは注意だったけど。」
運に負けたのか・・・トリニティはすぐに直感した。

「そういや、今日はトリーが人モードしてる・・・しかも初めて見るし。」
「あぁ、人と待ち合わせで指定場所も酒場だったからね。」
「トリーは良いよね~、ボディ換装すれば同一人物だって絶対分かんないし。」
集まっている4人で一番身長が低い女性アークス、フォールドアが呟く。

このオラクルにいる4種族の1つ・・・
キャストと呼ばれる種族は機械ベースの専用ボディと生体ベースの汎用ボディをそれぞれ1体持ち、時と場合によって使い分けられる。
だが中には片方のボディだけに執心しており、もう片方を完全に忘れているケースもあるようだが・・・。
トリニティは使い分け派の中でもある程度有名らしく、その名を知る者は多かった。

「で、トリーもショップで何か用事?」
トリニティに次ぐ長身の女性アークス、あまにたは尋ねた。
「あぁ、とある筋から調査団護衛任務の代役を頼まれてね・・・簡単に言うと人数集めに。 ついでにコレの強化かな。」
そう言ってトリニティは取り出した武器に付けてる迷彩を解除、異様な外観をしたアサルトライフルをカウンターへ置いた。
「マジかよ、アーレスじゃんか・・・」
「トリー、いつの間に拾った?」
女性2人が驚きと疑問を含んだ声を上げる、鯛ヘッド・・・ずんもそれに気付きひょっこり顔を出す。
「んでも、なんでまた迷彩?」
「あまり人に自慢するような物でもないし、それに見た目が合わないからね。」
至極当然であろう。 アーレスの名を関する武器は「幻獣・フォトンブラスト」に酷似した外観を持つ高級装備であり、他に類を見ない生物的な外観故に異様に目立つ。
当然、キャストである自身の外見に合うはずもなく、目立つ事を是としない彼自身が迷彩を被せたのだ。

「そうそう…お偉いさんからの依頼でウォパルに行くことになったから、みんな準備して。
大集団の護衛任務だから、殲滅力重視で頼むよ。」
強化カウンターへ武器を預けながらさらりと言ってのけるトリニティ
「上層部直々?!」
「マジかよ、どんな棚ぼたなのさ?」
「わ~い、ウォパルといえば海だぁ~♪」
想定済みの3人の反応を見つつ、トリニティはあっさり最大まで強化を済ませ、倉庫端末で装備を入れ替える。
愛用の装備一式を確かめつつ、先程送られてきた任務内容の詳細を確認・・・その不穏な内容に一抹の不安を感じるのだった。
「・・・遺棄施設最深部の未開エリア、か。」

-惑星ウォパル・海底エリア ルーサーの研究施設・調査対象エリア-

「・・・なんで・・・こんなに・・・湧いてんだよ!!」
「口より手を動かせ! 次の集団が来るぞ!」
「第7波、敵数約700! 接敵までおよそ45!」
「迎撃! 足止め可能なやつは出来るだけ稼げ! 前衛は強化補助貰うの忘れんなよ!」

雲霞の如く襲い来る大量の鳥系ダーカー、それに対し圧倒的火力で対抗している護衛のアークス達。
調査団自体はまだこの区画の入口で待機して貰っている、この中に護衛を伴って突っ込むバカは居ない。
状況的には採掘場で時々発生する防衛戦任務に近い、違う点といえば…防衛対象が戦闘エリア内にはない代わりに、ダーカーが1体でもこのエリアを通過したら任務失敗、という点だろう。
撃ち漏らしさえなければ失敗はありえないが、幾度も押し寄せるダーカーの数が一向に減らない事がアークス達の気勢を削いでいた。
「・・・小型の鳥系だけで大型が居ないことが唯一の救いかな・・・
それでも、この数はさすがにしんどいねぇ・・・」
弾を撃ち尽くしたツインマシンガンを素早く操作し、空となった弾倉を交換しながらクロトが呟く・・・楽な任務と思って参加したのが仇となったようだが、その眼は何か違うことを心配しているようだった。
「・・・何か、いや~な気配がさっきから止まらないねぇ・・・」

-惑星ウォパル・海底エリア ルーサーの研究施設・調査団待機エリア-

「・・・戦線は膠着状態、か・・・調査メンバーの安全が確保されてるなら、こっちも応援に行った方が良いかもね。」
トリニティの言葉に、「七日」のメンバーや同行する直援要員のアークス達も頷く。
調査団の直援部隊として「七日」を含む数チーム、計9名を残し、護衛として参加した大半のアークスは前線でダーカーの群れと戦っている。
だが、ココも決して安全な場所ではなかった・・・ダーカーは来ないが、時々「海王種」と呼ばれる異形の水生生物が散発的に襲ってくるからだ。
幸い、このエリアは天然の要谷のような地形であり、直援の戦力だけでも調査団の安全確保には十分であった。

「・・・ねぇ、さっきからぜんぜん海王種が襲ってこないんだけど・・・」
沈黙を破りフォールドアが呟く・・・周辺は不気味なほど静まり返り、周囲に反響する水音だけが響いていた。
数分前に中型の海王種「ヴィド・ギロス」7体を含む20体ほどの海王種が攻めて来てからもう10数分以上は経っていた。
その前までは5分と経たずに襲撃されていたが、先程からずっと静まり返っている。
「センサーにも動体反応はないね、近辺にはもう居ないのかな・・・。」
トリニティが自身のセンサー類で広域を確認し、この周辺には自分たち以外の生物が居ないと判断した。
「・・・だが、油断はできんぞ? 潜伏しつつこちらを伺っているという事もあり得るからな・・・」

手練れのアークスほど、油断という言葉には気を使う・・・それは戦う者であればどこでも同じだった・・・
「なら、斥候として僕が前に出るよ・・・ずん、いいかい?」
「あ、ズルいぞトリー自分だけいいカッコしようとして~!」
対抗心(?)丸出しな一言とともにずんはトリニティの右に並ぶ。
怪訝な表情を浮かべながらも残るメンバーに合図を送り、トリニティはずんと共に隊を離れた。

序章3 神をも下す悪意

「…やれやれ、お主らは「しょうかいにんむ」とやらで来ておるのであろう?
見ておればさっきから痴話喧嘩やら夫婦喧嘩の様な事ばかり……お主ら、暇なのか?」

手に持った扇子をパチリと閉じ、半ば呆れ顔を浮かべつつ目の前のアークス二人にツッコむ少女
彼女こそ惑星ハルコタンの神にして灰の巫女「スクナヒメ」だ

「痴話喧嘩って、コイツとはそんなんじゃねぇよ?!」
「夫婦喧嘩って、まだそんな関係じゃないわよ?!」

そしてそのツッコミに寸分の時間差なく反論するのは六芒均衡の四「ゼノ」とその幼馴染の「エコー」

「妾の前でなくとも、そんな痴態を目の前で見せられれば、呆れられて当然じゃな。」

慌てて体裁を繕うゼノとエコーだが、もう遅い
精神的ダメージを受けつつも、哨戒に戻る2人を見つめ…スクナヒメは思った

(妾の父と母も、あの戦がなければ…ああいう姿をいつか見れたのかもな。)

未練がないといえば嘘になる…しかし、取り戻す事はできない時間…そう切り捨て、スクナヒメは空を見上げた
一瞬、何かの影が横切ったような気配…そして次に訪れたのはあり得ない事であった

「…何じゃ、お主ら…!?」

周囲を囲む白ノ民、ただならぬ雰囲気を放ち、5人の白ノ民がスクナヒメを囲む様に立つ …その眼には意志の光がない…星の加護があるというのに操られているのだ

「妾に手を出す事は、如何な愚か者であっても凡愚の極みと知っての所業か?」

そう言い放ち、扇子を手に臨戦態勢に移るスクナヒメ…しかし
いくら身の危険があると言っても、相手は白ノ民…手に掛けたくないと自制心が働いてしまう
ゼノとエコーを呼んだとして同じ結果だろう…後々厄介な事になりかねない
その時、怪しく響く声が聞こえた

「…やっぱりね、神様って言っても所詮は力だけ…特に、アナタみたいなのは簡単に引っ掛かるわねぇ。」

「誰じゃ!? 白ノ民を弄ぶ愚か者め…灰の神子である妾の力を恐れてか!」

少し間が空き、声の主は近くの屋根上にその姿を表した
服も髪も、全てが漆黒…そこに女性らしい白い肌が浮いて奇妙なコントラストを描き妖艶な雰囲気さえ醸しだす…服には赤い血のような装飾ラインに六角模様…
その姿はまさにダークファルスそのものだった

「初めまして、そして、さようなら…」

言葉とともに腕を掲げ、巨大なエネルギー弾を生み出す女
白ノ民に囲まれたスクナヒメは驚愕し、結界で防御しようとするがその手を白ノ民に止められ、成す術なく攻撃を受けてしまいそうになっていた
しかし、そこに響いた声…

『待てぇ~い!』

声と共に凄まじい速度で黒い女へ迫る人影…
その影は黒い女のすぐ上へ鉄拳一閃、溜め中だったエネルギー弾を一撃で上空へ弾き飛ばしたのだ

「な…!? おのれ…ッ!?」

驚愕するのも一瞬、黒い女はその人影を追撃するべく手を動かすが
眼前を一発のフォトン弾が掠めていった

「チッ、そう簡単には当たってくれねぇか…。」
「スクナヒメ様、ご無事ですか!」

声のした方向には、先ほど2人で連れ立っていたゼノとエコー
そして、スクナヒメを拘束する白ノ民を牽制するかの様に剣を構えるコトシロ
黒い女を強襲した人影は既にその場を離れ、向かいの屋根の上でいつものポーズを取っていた

「困っているフォトンを感じ、六芒均衡の六にして正義の執行者…
俺ことヒューイ! ただいま到着ッ!!」

ビシっと決めポーズを取るヒューイだが、誰もその姿を見ることはなく
全ての視線はスクナヒメを襲った黒い女へ注がれていた

「く…っ、誰も俺の勇姿を見ていない…だと…!」
「く…っ、あと少しで邪魔者を消せたのに…!」

ヒューイの慟哭と黒い女の言葉が重なり、奇妙な雰囲気…
だが、それもすぐ掻き消え、黒い女はその姿を闇に溶け込ませ、去っていった
同時にスクナヒメを拘束していた白ノ民たちも糸が切れたように倒れる、洗脳が解けたようだ
そう間を置かず意識を取り戻し始め、周囲を見回して困惑し始める白ノ民たち

「スクナヒメ様、ご無事で何よりです…」

剣を収め、跪いて確認を取るコトシロ
そこへ「助けに来るのならばもっと急いで来ぬか! この阿呆が!」と1発
スクナヒメは扇子でコトシロの頭を殴る
明らかにムチャ振り的な文句だが、それはいつもの事である

「やれやれ、お主らアークスには本当に世話になってばかりじゃな…。」

黒い女が去り、溜め息を吐きながらも礼をいうスクナヒメ
アークス達の働きはハルコタン各地でも話題になっている
散発的に襲ってくる黒ノ民やダーカーを相手に猛然と乱入し、時に圧倒…時に協力して撃退している
白ノ民の一部でも、彼らの支援や協力はありがたいと言われている事もあった

「いやはや、急にコイツから呼び止められて『スクナヒメ様が危険だ!』ってな。
ムチャクチャヤバそうな雰囲気だったからな、何とかシャオに話付けてとんぼ返りして来て正解だったぜ。」

コトシロを指し、経緯を語るゼノ
エコーも話に加わり、先ほどの黒い女の話題に切り替わった

「…けど、見たこともない奴だったわね…さっきの女。」
「確かに、姿はダークファルスっぽかったが…前に殺りあった【若人】とは違う… ダークファルスには違いねぇ様だけど…何者なんだ…?」

《…その推論はたぶんハズレだよ、ゼノ…さっそくで悪いけど、状況報告を。》

ゼノとエコーの会話にシャオからの通信が入る
ゼノとエコーによる状況説明の後、直接スクナヒメとも言葉を交わし推測を立てていくシャオ

《…少なくとも、現在までに確認されているダークファルス…
2年前にアークスを取り込んで復活、最後に【双子】と心中するようにして消えた【巨躯】… 10年前にアフィンの姉を依代として復活しようとし【双子】に喰われていた【若人】… 最近までフォトナー最後の1人、ルーサーとしてアークスを我が物としていた【敗者】… そして不気味に沈黙を続けた後【敗者】と【巨躯】を取り込み、「深淵なる闇」の復活を目論んでマトイに討たれた【双子】…
そして今現在において、「深淵なる闇」へと変貌している【仮面】。》

現状…この5人以外のダークファルスは確認されておらず、また、それ以外のダークファルスの情報は 「元【若人】」であるアフィンの姉・ユクリータと「初代【若人】」であったアウロラでも分からない。
つまり、完全に情報のない「新たなダークファルス」という可能性が浮上しているのである。

「…じゃが、「だぁくふぁるす」はその5つ以外に無いのじゃろう?」

確認をするように聞いてくるスクナヒメ、アークスから提供される情報として、最重要項目であるダークファルス…そして「深淵なる闇」に関する情報は今後のハルコタン防衛に際しても無視できない
危険度でいうならば、あの「禍津」と同等かそれ以上と自身も感じているからだ

「そう聞いてるぜ、少なくとも俺たち全員がそうとしか知らねぇからな…」
「私達アークス以外に、ダークファルスの情報を持っている存在がいるのはありえないわけだし…」

《そう、僕達アークスでもダークファルスに関する情報は、副次時に手に入るモノが殆どを占めている… 敵対しているといっても、完全な情報を手に入れる事はできないからね。》

敵対しているが故、お互いの情報は隠蔽し合うのが常…
特にダークファルスは謎な部分が多く「夫々に固有の意思が存在し、尖兵としてダーカーを統べ操る存在」 というレベルの確定情報しかない
「深淵なる闇」に関しては、「情報など無い」に等しいものだ
分かっていることは「惑星ナベリウス上空に度々現れ、星を喰らうことで完全復活を果たそうとしている」
それを毎回、アークス総動員による阻止作戦と、取り込まれながらも意識を保っている【仮面】の能力で辛うじて水際阻止を繰り返している現状だけだ
そして今は、アークスの最大戦力であるマトイと「****(※ストーリー主人公は別存在のため伏せる)」が初回の総動員作戦の後、ダーカー因子の集中浄化の為の冷凍睡眠措置によって戦線離脱…大幅な戦力ダウンをしているのである

《…とにかく、スクナヒメも今後の警戒は十分にしておいたほうが良い。
少し前に、アムドゥスキアの龍族の長「ロ・カミツ」も何者かに襲撃されたという情報が入ってるからね… この件に関しては箝口令を敷く事にする…無闇に話さないでよ?》

「わーってるよ!」
「了解、ゼノは私がちゃ~んと見張りますからね!」

相次ぐ襲撃と目撃された謎の女…アークスの戦いは未だ続く
新たな謎と疑惑を抱え、それでも未来を掴むために…

序章2 空を覆う暗雲

- 惑星ウォパル 海底エリア ルーサーの研究施設 -

「・・・さて、残る準備は・・・」

人影が一つ、暗がりに紛れたままつぶやきを漏らす
かろうじて判別できたそのシルエットは女性・・・しかし、ココは一般人など入れる場所ではない
その女が見つめる先には一つのカプセル、中には一糸纏わぬ姿で杖を抱く銀髪の少女が眠っていた

「こちらの準備は全て整った・・・
残るは『アレ』へのお膳立てと『鍵』の奪取、そして・・・」

影は一瞬にして醜く歪み、次の瞬間には違うシルエットになっていた

「そろそろ、目障りなあの2人には退場して貰おうかしらね」

独特な雰囲気と声を残し、謎の女は闇に溶けてかき消えていった

- 惑星アムドゥスキア 龍祭壇エリア 最奥神殿「ロ・カミツの間」 -

彼女は唐突に悟った…何を? この場を覆う異様な気配?
違う…この星、惑星アムドゥスキアの全体を覆う程の規模だ
この気配は…ダーカー?
否、似てはいるが違う…アレはもっと禍々しい…この感じは…恐怖?
いや、これは悲しみだ…慟哭と言っても良い いつから?
いや…これほどの気配に今まで何故気付かなかった?
龍族の長「ロ・カミツ」は逡巡を繰り返すが答えは浮かばない
いや、答える事はできないだろう
何故なら、彼女の思考はその瞬間のまま、停止させられているからだ

「さて、残る邪魔者は…あのアークス共か…まぁ、アレには使い道があるから、頭だけは止めておくとしましょうか。」

宇宙と見違えそうな黒服に血のような赤いライン…
まるでダークファルスを思わせるような服に身を包む女が一人、不敵な笑みを浮かべる
そして、近付いて来る気配の主に悟られる前に、その姿を虚空へ消していった
そしてそれは猛スピードで空から舞い降りて…いや、落ちてきた

[カミツ様~!!]

落ちてきたのは、透き通るような水晶を全身に纏う巨大な龍…クォーツドラゴンと呼ばれる龍族…
その巫(かんなぎ)である「コ・レラ」であった
仕えるべき主であるロ・カミツへ迫る異様な気配を察知し
最速で駆け付けたのだろう
しかし、応えは帰ってこない…

[…?][カミツ様?][如何がされましたか?]

再度の呼びかけにも、ロ・カミツは応えない…否、応えられないのだ
あまりの事態に呆然とするレラ、しかしそれも数瞬
この場に残る忌々しい気配を感じ、その心当たりを探り始めた…いや、答えはすぐに出た

[これは…][ダーカーの気配!?][…忌々しい][よくもカミツ様を!!]

彼女はその足取りを掴もうと必死に気配を辿るが、すぐに諦めた
懇意にしているアークス「アキ」から、ダークファルスは空間転移が可能であり
どれだけ重点的に追跡してもすぐに撒かれてしまう、と聞かされていたからだ

[コのレラよ][一体][どうしたというのだ?][カミツ様は…]

周辺の警戒をしていた他の龍族達も、異様な気配とレラの声に気付き駆け付る
そして物言わぬまま呆然とするカミツと憤るレラを見つけたのだ

事態を飲み込めぬまま困惑する龍族たち…その中をレラは再び舞い上がり、
ある場所へ急いだ

[コのレラよ][何処へ行く!?]
[カミツ様は一体][如何なされたというのだ?!]

レラはその声に短く応えた

[アークスの][元へ行く!]

全速で青空を駆けるレラ、その頭には面識のある何人かのアークスの姿が浮かんでいた

[アークス…][アキや][あのアークス達ならば]
[カミツ様を][救ってくれるはず!]

己の限界を超えそうな勢いで、レラはある場所へと急ぐ

アークス達と語らう為に自らが選んだ「あの場所」へ

- 浮遊大陸エリア「魂の眠る地」-

彼女は歌っていた、かの龍の為に…「あの時」を忘れない為に
風に流れる美声の主は、遠巻きながら周辺に佇む巨大な龍たちから見れば小さい…
彼らは、ここ「テリオトー」に棲む屈強な龍族たちだ

以前は自分たち以外の種族の出入りを頑なに拒否し続けていたが
火山洞窟に棲む火龍ヒ・ロガを救った事やこの近辺に出たダーカー撃退に協力した事で態度が軟化を見せ始め
今では襲われる事も少なくなり…時折歌いに来る彼女の歌を黙って聴いている者も増えていた

[やはり…][幼子たちの話は][真実だったか]

歌い終えた彼女に1体の龍族が歩み寄ってくる…
周りの龍族とは違い、その身体は褐色…杖を持ち、首には黄色い鉱石の様な結晶が見える
浮遊大陸由来の龍ではない…下に広がる火山洞窟由来の龍なのだろう

[貴方が][クーナか][我が名は][ヒのエン]
[…実に良い歌であった][この地の魂も][安らぎを得ただろう]

「ありがとうございます…龍である貴方にそう言って頂けるなら…こうして時々、歌いに来ている甲斐がありますよ。」

クーナは少し恥ずかしそうに照れ笑いを隠しながらも素直に礼を言った
龍族の表情はほぼ変化しないが、雰囲気では賞賛に照れているのを見て和んでいるようにも見えた

[そうか][かの龍][ハドレッドは…][そなたの弟か]

例の「暴走龍」を思い出すエン
ハドレッドは幾度となく、テリオトーでも目撃された事があった
しかし、その真意を知る由もなく…その場に現れていたダーカーを喰らい尽くし、その姿を消していた
その後をエンは知らないが、彼女の雰囲気から死んだという事は感じ取れた

「…あの時を、あの子が救われたあの瞬間を忘れない為にも…」

[その先は…][言わずとも良い]

「…ありがとうございます。」
しばらくの静寂、そしてそれを破る轟音…その轟音の主はすぐ側の地面に身体を突き立てていた

[クーナ!][此処に居たのか!][カミツ様が…]

「…落ち着いて、ロ・カミツがどうかしたのですか?」

[…少しは冷静になれ]

クォーツドラゴンの巨体で慌てられては事情を聞く事もままならない
エンはそう考え、レラの鼻先(?)を杖で殴った

[痛い…][何をする?]

[その体躯で][ただ慌てるだけでは][何も進展しない][冷静になれ]

年長者に諌められ、平静に戻り反省するレラ

[では聞こう][カミツ様が][如何なされたというのだ?]

[そうだ][カミツ様が…]

突如感じたダーカーの気配に焦燥感を覚え、急いで神殿へ来たが
時既に遅くロ・カミツは消えぬまま物言わぬ状態となり、周辺にはダーカーらしき気配の残滓
原因を起こした犯人の姿は既になかった
事を全て伝え、気が気でないレラと対象的に、エンはクーナと冷静に状況を分析していた

[どうなっているかは][分からないが]
[おそらくカミツ様は][惑わされているのではないか?]
[それ故に][我らの声も][届いていないのだろう…]

「…そんな事が出来るのは、ダークファルスに間違いないでしょう。
どんな手を使ったかは分かりませんが…。」

そういう事に詳しい研究者でもない人間と龍族では、そこまでが限界であった
しかし、不意に呆れた声が直ぐ側から聞こえてきた

「おいおい、私の存在を忘れてはいないかな?」

祭壇からの分かれ道へと続くルートから歩いてきたのは白い「タイガーピアス」を纏った黒髪の女性…
赤縁メガネが特徴的な「生命の神秘」を研究する博士にしてアークスでもある「アキ」だった
その後方には助手のライトがヘタりながら走ってくるのも見えている

[アキ][それにライトも…][来てくれたのか!」

親しい友人との再開に声が弾むレラ、アキも笑顔で接するが、状況は芳しくないのは明らかだ

「途中から姿は見えていたよ。…近付く途中で気になる事を言ったのが聞こえてね」
「…だからって…先生、僕を…置いて行かないでくださいよ…はぁはぁ。」
「文句をいう暇があるなら頭を働かせ給えライトくん。
ロ・カミツが同族への返答にすら満足に出来ないという状況…さすがに楽観など出来ないからね。」

研究者にしてアークスというが、助手の息切れに対し平然と会話を続けているアキ…一体どうなっているのだろう
カミツとは別の事でも、気になってしょうがないレラとエンであった

序章1 とある少女の憂鬱

- 旧マザーシップ中枢部 -

 

「・・・馬鹿なぁ・・・っ!? ・・・何処に、どこに間違いが・・・ッ!」

崩れゆく空間の中に響く、あのヒトの声・・・私は今でも時々、あの時の光景を夢に見る
・・・崩壊していくダークファルスの巨体、声の主は史上最後のフォトナーとしてアークスを動かしていた・・・否、支配していた闇だ

私はあのヒトの声を、ずっと前に聞いた事がある・・・でも、何時なのかは思い出せない・・・

 

- アークスシップ4番艦:アンスール ショップエリア-

 

「・・・それで、どうしてわざわざアンスールまで・・・?」
男はずっと抱えていた疑問を相手へぶつける
相手は質問に応えず黙ったままだったが、その沈黙と態度は理由を語るのに十分だった

その相手、奇抜とも言えるピンクの髪の少女はショップエリアの巨大モニターが見えるエリアの一角で膝を抱え、流れる映像・遠くの喧騒・話しかけてくる銀髪の男
そのすべてに背を向けて顔を伏せ、肩を震わせながらも沈黙を守っていた
「・・・またか、相手が悪いのは当然だけど・・・その豆腐メンタルは何とかして欲しいな・・・。」

銀髪の男はため息を吐きながら、心配しつつも少し棘のある言葉を少女にかけた
少女は自分でも判っていた、そう言われるのももう何度目か分からないが、自分の心の弱さは自覚している

ふと、銀髪の男の後ろから鯛の被り物がひょっこりと顔を覗かせた
「あら残念、ブロークンハート状態かぁ・・・暇なら皆で浮遊大陸でも散歩しに行くかい?  って誘おうとしてたんだけど。」
鯛の被り物は軽いノリでそう言うとフォトンチェアを出して座る
銀の鎖をあしらった黒コートに身を包み、背負った武装は特殊な紋章入りである希少な長槍
一見クールな外見だが唯一、頭だけは完全にシリアスぶち壊しな鯛の被り物だ・・・

銀髪の男は鯛頭の言動に文句は付けなかったが、少し不安げな表情を浮かべて疑問を呈した
「・・・誘ってくれるのは嬉しいけど、他のメンバーは揃ってるのかい? ずん。」
その質問に鯛頭・・・ずんはチッチッと指を振ってこう応えた
「・・・・・・君らが初勧誘で合計3人だよw トリー、もう少し気楽にいこうずぇ~♪」
銀髪の男・・・トリーと呼ばれた男は盛大に呆れたため息を吐き、鯛頭は HAHAHAHA と笑う
「・・・捌いて貰おうかな、フランカさんに・・・」
その瞬間、鯛頭の顔が凍り付き、血の気が引いたのが全員に判った

「冗談キツイから・・・ね、ヤメテクレナイカナ・・・トリニティ様ぁ・・・」
勿論、銀髪の男が冗談で放った一言だが、本気で殺られる危険があると思っているのか
鯛頭が急に大人しくなる・・・いつの間にか沈黙を守っていた少女もこちらを向いていた

「・・・毎度だけど、トリーは冗談で言ってるんだから・・・」
「コレのどこが!? マジな眼光キテるし! 殺気出てるよ殺気!?」
「┐(´∀`)┌ヤレヤレ 透火の言うとおり、冗談だって・・・」
鬼気迫るずんの演技(?)を見て、やや呆れ顔になりながらも少女・・・透火はピンクのポニーテールを揺らして立ち上がり
「やっぱり2人は面白い・・・私も、元気出さなきゃ!」
ガッツポーズを取り、気合を入れ直す透火に、鯛が一言
「・・・透火ちゃん、毎度だけど強化の失敗は日常茶飯事って思わなきゃ、あのドゥモニ(ドゥドゥとモニカ)は強敵だからねぇ」

『言いたい事は分かるが今言うことか!?』 とツッコミを入れたい衝動に駆られるトリニティだった