第2話 過去と記憶と運命と act.1

-アークスシップ4番艦・アンスール 居住区画「透火のマイルーム」-

「ふーん・・・で、今に至ると・・・?」

険しい表情ながらこれまでの経緯説明を反芻し、唸る一人の女性。
ブロンドヘアの長髪、そして抜群のプロポーションを持つ女性・・・
セリス・シェールは、視界の端に座っている少女を見やり、そしてまた視線を部屋の主・・・透火へと戻す。

「しばらくは監視付きでフィリアさんに面倒見て貰ってたんだけどさ・・・。」

言葉尻を窄めてく透火をフォローするかのように、テーブルへ紅茶を出しながら瑠那が続きを話す。

「シャオの話では、『実験体だったという事以外に不審な点は見付けられなかった』という事で、発見者であり一番懐かれている義姉さまの元で様子を見て欲しいとの事・・・」
「・・・ですが、引き続き情報部の監視体制は継続中です・・・この件はあまり口外されないようお願いします、シェールさん。」

部屋の入口で壁に寄り佇むのは情報部所属のアークス、バイザーで目元を隠してはいるが敵意などは無い。

「・・・もぅ、アイカちゃんもこっちで一緒にお茶すればいいのに・・・。」
「任務中ですので。」

そっけない態度で即答され、透火は落胆する。
その様子に薄ら笑みを浮かべ、セリスは出された紅茶を啜った。

-アークスシップ中枢部・VR会議室-

その頃上層部では連日会議が行われ、救助された少女・・・『実験体の今後の扱い』について議論は白熱していた。

「・・・今後、何らかの要因で救助された実験体が我々や外部に対して危害を加えないという保証はどこにもありません・・・よって『然るべき処置』を早々に行うか、その身柄を拘束するという方が良いと思いますが?」

然るべき処置・・・ルーサーの実験体として様々な研究の生贄とされた存在は一部を除き、異形の生物になるか、自己を持たず人形のように使われ捨てられるだけであった。
この場合、然るべき処置とはおそらく『人形として殺処分』であろう。
淡々と述べるのは六芒均衡の三にして『二代目』の三英雄・カスラ・・・冷酷とも取れる言だが組織としては当然であり、理由としても妥当である。
しかし、真っ向から拒絶するのは現アークスのトップであり、元は何の力もない一般人であった総司令ウルクと、同じ六芒均衡の六で人助け最優先の無駄に暑苦しい男、ヒューイだった。

「確かに実験体という事や、何らかの原因になりうる可能性はあります・・・ですが、その原因となるものを取り除くなどして、本来あるべき状態にしてあげるという事は出来ないんですか?」
「そうだ!まだ小さいんだから・・・早々に処分とかして後でみんなに恨まれたくないぜ・・・ぶっちゃけ今の監視くらいでいいんじゃないか?」
「暑苦しい無能バカは黙ってなさい。」

前半のウルクの発言はともかく、後半のヒューイの発言は明らかに個人的・・・とはいっても、実際問題、そういう事で逆恨みを持たないとも限らないので否定はできないが。

「では司令、その『要因を取り除く』為に彼女を検査しなくてはなりません。
ですがそれには多少の苦痛や実験的行動も当然含まれています・・・無論、これまで様々な実験を彼女はその幼い体で受け続けてきました。
貴女のその発言は、救助された彼女に『理由や名目は違っても同じ苦痛を与える』という事になりますよ、ウルク司令。」

「だけど、シャオの話じゃ人体実験の痕跡はあっても、それで何か植え付けられたり、妙な細工をされたりした痕跡は無かったんだろ?
俺も即刻処分はやりすぎだと思うぜ、カスラさんよ。」

かつてはいちアークスとして、現在は六芒均衡の四として頼れる兄貴分のゼノが割って入る。
帰還後、当事者の透火達を始め当該の任務に従事した全てのメンバーはシャオ直々の精密検査を受けており、診断結果は全員異常なし。
救出された少女も『実験の痕跡はあるものの、異物や他にない臓器・器官の移植などの痕跡はなく、人体実験の影響で起こり得る外見の変質が散見されただけで特に悪影響を及ぼす要因は認められなかった。』というものだ。

「ですが現状では無くとも、いずれ発見される場合や成長による要因で発生する事例も含め、無策で居れば無視できない事態を引き起こしかねないという事は、理解して貰いたいですね。」

あくまで冷徹なカスラに、今の持論では対抗し得ない事を察するウルク・・・確かに現状無策のままでは、少女が何らかの原因になり得る可能性はゼロではない。

「現状じゃ情報不足で解決策も対抗策も練れないんだ、アタシはもう少し様子を見ても良いと思うんだけどね。」

六芒均衡の二・マリアは現状維持を提言・・・発言こそなかったが、零のクーナも賛同の意志を示していた。

「このままでは平行線だな・・・議論を交わす時間は欲しいが、この話題だけに時間を費やす訳にはいかん。」

黙して全員の意見を聞いていた六芒の一・レギアスが口を開く。
全員の顔を見やり、場をまとめるようにシャオは提案した。

「彼女に対する再検査は一応保留として、準備だけは進めておく事にする・・・それと、チャンスがあったら僕とクーナとサラで、彼女に対する尋問もやってみようと思う。
彼女の反応によっては、今後に重要な何らかの手がかりやきっかけを掴めるかもしれないからね。」

全員の表情は硬いままだが、他に代案はない・・・。

「それじゃあ、次の議題へ進もう・・・。」

-アークスシップ ショップエリア1F・西側休憩スペース-

噴水広場の西側にあるベンチの一つに座り、武器の手入れをする1人のアークス。
額の角と左右色違いの瞳、水色のショートヘアが黒衣に映える少女・イオは、愛用している武器の向こう側に見え隠れした姿を見つけ、その姿へ向かって挨拶をした。

「こんにちは、透火さん・・・あれ、セリスさんも一緒だったんだ。2人揃って何して・・・・・・?」

同じアークスとして透火とセリスはもちろん知っているし、後ろから付いて来ている人物も格好からしてアークスだという事は分かった。
しかしだ、透火が手を繋いでいる少女は全く見覚えがない。

「・・・なぁ・・・透火さん、その子って・・・。」
「彼女の詳細については機密事項が含まれています、あまり口外はしないで下さい。」

咄嗟に耳打ちで注意に入るアイカ、しかし透火は・・・

「大丈夫だよw この子は私の妹、名前は彩火。」

突然の妹宣言に半ば呆気に取られる一同・・・。
発言した本人だけがさも当然の如くドヤ顔をしている。

「・・・そ、そうなのか・・・はじめまして。」

気を取り直し、少女に挨拶をするイオ。
最初は恐る恐ると手を伸ばしていたが、触れ合ってからは恐怖心もグッと薄らいだようだ。

「お姉ちゃん・・・きれいな眼・・・」
「ん、ありがと・・・キミの髪の色も綺麗だよ。」

彩火と名付けられた少女は、イオの左右で違う瞳を見て宝石のように思ったのだろう。
イオも、彩火の混じり気ない銀の髪を素直に褒めた。

「・・・・・・♪」

少女の顔にうっすらと笑顔が見えてきた事で、透火はホッと胸を撫で下ろす。
暗い表情のままで過ごして欲しくなかった彼女にとって、この出会いは渡りに船となった。

「・・・はぁ、貴女の言動には慣れてきたつもりでしたが、まだまだ私の予測が甘かった様ですね。」

もう好きにしてと言わんばかりのあきれ顔をするアイカ、バイザー越しにでも「もうやだ、この人」という感じがひしひしと伝わってきた。

「ヨロシクな、彩火・・・俺の名前はイオ。」
「さいか? あたし? ・・・お姉ちゃんと、お名前似てる?」

(言動からこの子の知識レベルは年齢相応より少し上・・・理解力もある、感情も欠落してた訳じゃない・・・ただ表現する場がなかっただけね。)
一連の状況を分析するセリス、他には聴こえぬ僅かなその声は隠し持った通信機の相手・・・シャオにのみ届いていた。

『・・・なるほどね、それなら今度は直接会ってみよう・・・誘導をお願い。』
(分かった。)

-アークスシップ ショップエリア・中央噴水広場-

イオと別れ、ショップエリアの中央にある噴水広場へ歩く4人。
彼女らの姿を見つけ、声を掛けたのは・・・

「やぁ、2人とも。 その子の様子はどうだい?」
「なぁんだシャオ、わざわざ見に来たの?」
「まぁね・・・僕だって彼女の動向は気になってるんだよ、一番懐かれてるのがキミだって聞いた時に『あ~、これは参ったなぁ・・・』って思ったんだよ?」
「何それ、ひっどーい。」

アークスの管理者にして最重要人物・・・管制を司る『人造全知存在(アカシックレコード)』シャオ。
かつて存在した『全知存在(アカシックレコード)』シオン・・・彼女とアークスをルーサーの手から開放し、「真に求められるアークス」のために尽力した1人であった。
人間を理解し、傍らに在り続けることを選択した彼・・・自らヒトに近くあろうとする彼の言葉はヒトのそれと変わりなく、彼自身もそうあろうと常に努力している。

「シャオ、私は・・・」
「うん、護衛ご苦労様。 この後はこっちで引き継ぐから、カスラにもよろしく言っといて。」

アイカは一礼し、この場を離れていった。
入れ替わりに訪れたのは純白の装具に身を包む老齢のキャスト・・・六芒均衡の一、レギアスだった。

「2人とも、ひと月ぶりか・・・変わりないようだな。」
「六芒の一、レギアス・・・」
「ちょ・・・なんでココに?!」
「シャオの護衛がてら、孫弟子の様子を見にな・・・」

レギアスの存在に驚く透火。セリスは少しバツが悪そうに顔を透火から顔をそむけた。
知ってて知らぬふりするのはやはり心苦しいようだ。

「最初は少々、心配ではあったがな・・・」
「ちょっと、ホント2人とも失礼だっての! 私、そんな信用ないの?!」

六芒均衡であるレギアスにまったく物怖じしない透火。
彼女はいつもこうだった、年上であろうが為政者だろうが彼女は物怖じなどしない・・・長所であり短所・・・彼女は相手が誰であろうとフリーダムなのだ。

「昔、刹那からキミの事を聞いていたのだ・・・まぁ、以前に思っていたよりだいぶマトモであったな。」
「・・・ぐぬぬ、刹那さんレギアスに何を吹き込んでんですかっ!」

シャオとセリスは、2人の即興漫才のような応酬に思わず笑ってしまった。
「ちょっと・・・レギアス、あんまり笑わせないでくれ・・・本題に入れないよw」
「透火・・・その刹那さん?w その人にどんな風に思われてたの?w」

止まぬ笑い声に憤慨する1人、置いてけぼりの小さな少女は、周囲の話が見えない事態に首を傾げるのであった。

「・・・・・・(o’ω’o)?」

第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と act.4

巨体が倒れ込む音と共に特徴的な断末魔を上げてマギサ・メデューナは息絶える。
残るのはあまりの独壇場っぷりに言葉を失ったサラと、してやったり顔でハイタッチを決める双子であった。

「・・・練習・・・練習なのこれで?」
「にゃ? そうにゃよー。」
「単一目標に対しての効果的かつ迅速な対応の一環・・・
その答の一つが、『多数・多方向からの攻撃により目標を釘付けにしたまま殲滅まで持っていく事』。
私たちはそれを2人だけで行えるようにしているだけです。」

淡々と答える瑠那の隣ではしゃぐ眞那。

「当面の目標はボス級大型エネミーを出落ちさせるっ!」

などと斜め上の目標を高らかに宣言した眞那。
サラはというと・・・「勝手にしなさい」とばかりの盛大なため息で2人を見るだけだった。

-同エリア・分割ルートB組-

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第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と act.3

-惑星ウォパル ルーサーの研究施設・秘匿エリア-

秘匿エリアの入口からここまでさしたる抵抗も出迎えもなく、周辺を探索しつつ奥へと進む一行
長い沈黙を破ったのはまたもセキュリティロックだった

「・・・ココも透火ちゃんの認証、要るのかな?」

ずんが端末を調べながら呟く、瑠那がカード用のスリットに気付き知らせた。

「ココ、さっきの所員証が使えるかも・・・」

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第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と act.2

トリニティとずんは護衛隊と分かれ、斥候として捜索に出てしばらく・・・
2人は先程のエリアからは少し離れた開けた地点で周囲の様子を探っていた。

「この辺りの海王種も、ほとんど居なくなってる・・・ということは」

ずんは推測ながら、周囲の海王種はほとんどダーカーに追われてこの近辺から去ったか、あるいは先程の防衛戦で殲滅しきれた、と類推する
トリニティのセンサーも、それを肯定する環境数値を示していた。
・・・しかし、少しだけ違う情報もあった。

「でも、この周辺の海王種は移動したんじゃない・・・この場で殲滅させられてるね。」

残留するフォトンのデータは、ある反応を顕著に示していた・・・それはアークスが放つ攻撃性テクニックのフォトン反応だった。

「この場でも戦闘が? 仮にそうならそのアークスは一体どこに・・・?」

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第1話 惑星(ほし)と少女と暗闇と act.1

スクナヒメとロ・カミツ襲撃事件から約1ヶ月・・・

ロ・カミツの封印状態は「限定空間内の時間停止による継続的拘束状態」と判明し、現場と原生民族である龍族に詳しいアキを加えた対策専門チームが結成され、解決案を模索中・・・

スクナヒメを襲撃した謎の「黒い女」に関しては、目下消息不明・・・

しかし、「黒い女」探索中に謎の信号をキャッチする、それは惑星ウォパルにあったルーサーの研究施設…その未調査区画からであった。

-アークスシップ4番艦・アンスール 一般区画「真紅の酒場」-

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序章3 神をも下す悪意

「…やれやれ、お主らは「しょうかいにんむ」とやらで来ておるのであろう?
見ておればさっきから痴話喧嘩やら夫婦喧嘩の様な事ばかり……お主ら、暇なのか?」

手に持った扇子をパチリと閉じ、半ば呆れ顔を浮かべつつ目の前のアークス二人にツッコむ少女
彼女こそ惑星ハルコタンの神にして灰の巫女「スクナヒメ」だ

「痴話喧嘩って、コイツとはそんなんじゃねぇよ?!」
「夫婦喧嘩って、まだそんな関係じゃないわよ?!」

そしてそのツッコミに寸分の時間差なく反論するのは六芒均衡の四「ゼノ」とその幼馴染の「エコー」

「妾の前でなくとも、そんな痴態を目の前で見せられれば、呆れられて当然じゃな。」

慌てて体裁を繕うゼノとエコーだが、もう遅い
精神的ダメージを受けつつも、哨戒に戻る2人を見つめ…スクナヒメは思った

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序章2 空を覆う暗雲

- 惑星ウォパル 海底エリア ルーサーの研究施設 -

「・・・さて、残る準備は・・・」

人影が一つ、暗がりに紛れたままつぶやきを漏らす
かろうじて判別できたそのシルエットは女性・・・しかし、ココは一般人など入れる場所ではない
その女が見つめる先には一つのカプセル、中には一糸纏わぬ姿で杖を抱く銀髪の少女が眠っていた

「こちらの準備は全て整った・・・
残るは『アレ』へのお膳立てと『鍵』の奪取、そして・・・」

影は一瞬にして醜く歪み、次の瞬間には違うシルエットになっていた

「そろそろ、目障りなあの2人には退場して貰おうかしらね」

独特な雰囲気と声を残し、謎の女は闇に溶けてかき消えていった

- 惑星アムドゥスキア 龍祭壇エリア 最奥神殿「ロ・カミツの間」 -

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序章1 とある少女の憂鬱

- 旧マザーシップ中枢部 -

 

「・・・馬鹿なぁ・・・っ!? ・・・何処に、どこに間違いが・・・ッ!」

崩れゆく空間の中に響く、あのヒトの声・・・私は今でも時々、あの時の光景を夢に見る
・・・崩壊していくダークファルスの巨体、声の主は史上最後のフォトナーとしてアークスを動かしていた・・・否、支配していた闇だ

私はあのヒトの声を、ずっと前に聞いた事がある・・・でも、何時なのかは思い出せない・・・

 

- アークスシップ4番艦:アンスール ショップエリア-

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